夢――夢を見ていた。

一面の桜が咲き誇る場所に、一人の少女が立っていた。

「久しぶりだね」

「ばあちゃん、久しぶりだな」

その少女――ばあちゃんは桜の木のふもとで笑っていた。

「で、何の用だ?」

「何、用事がなきゃ孫の顔を見ちゃいけないと?」

「そう言う訳じゃなくて、“あの力”がなくなった今、春でもないのに俺に会いに来るなんてなにか用事でもあんのかと」

「まあ、一つあるんだけど」

ばあちゃんは苦笑交じりに言う。

「コホン。純一が今付き合っている娘がいるだろう。あの娘の事だが」

「ことりの事か?」

「ああ、実はね…………」

話を聞くと、ビューッと桜の花を乗せた強い風が吹いた。

俺の意識はそこで途絶え、まどろみの中に消えていった。

そのせいか、俺が起きてからこの夢を思い出すのにしばらく時間が掛かった。





夢と桜と歌声と





「朝倉君、朝だよ。起きて」

ことりの声と身体を揺さぶられる感覚がする。

「…もう……」

ふと唇に感触がくる。

俺はゆっくりと身体を起こす。

「おはよう、ことり」

「おはよう、朝倉君」

朝の挨拶をにこやかに交わすことりと俺。

「じゃあ、先に下りてるから。ご飯冷めちゃうといけないから早く来てね」

そういって、ことりはすぐに部屋を出てリビングに向かったようだ。

「さてと、着替えますか」

すぐさま制服に着替えて、リビングに降りる。

リビングに入ると、いい匂いが漂っている。

テーブルには、とても美味そうな朝食がおいてある。

「今日も美味そうだな」

「褒めても何にもでないよ」

顔を少し赤らめて言うことり。

こんな会話、毎度の事だが正直、新婚夫婦みたいだと思ってしまう。

実際、お互いの両親が承認しているので近からず遠からずってとこだが。

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

ゆっくりとことりの手料理を堪能してから、鞄をもち玄関に向かう。





「行こうか」

「うん」

玄関の鍵を閉めて学園へ歩き出すが、まだかなり時間がある。

「今日も、行くか?」

「うん。朝倉君、聞いててね」

「では行きましょう、姫」

ことりの手をとり、この島の一番大きな桜の木へと向かった。





俺たちは桜の木に着いた途端、絶句した。

「……桜が……咲いてる?」

そう、枯れてしまったはずの桜の花が、見事に咲いているのであった。

今の季節は夏と秋の境目、こんな時期に桜は咲かない。

周りの桜は咲いていないのに、何故かこの桜の木だけ狂った様に咲いていた。

「なんなんだ?一体」

「分からないけど、芳乃先生に聞いてみれば?」

「さくらか」

確かに、こういった事態に一番詳しいのは、さくらだろう。

だが……

「何かあったら、あっちから話に来るし。それよりことり“力”は使えるのか?」

「全然聞こえないよ」

「そうか……」

ことりの“力”が戻ってないって事は、俺の予想は外れたわけだ。

「とりあえず、歌ってくか?」

「うん」

ことりは、桜の幹に寄りかかって目を閉じた。


♪〜♪♪〜〜♪〜〜♪


♪〜〜♪〜♪♪♪〜〜♪


♪♪〜♪〜〜♪♪〜♪


そう、ことりは相変わらず素晴らしい歌声だった。

けど……俺には何かが足りないような気がする。

「どうだった?」

「相変わらず、綺麗な歌声だったよ。でも」

「でも?」

「何かが足りないような気がしたんだよな」

「なにか?」

う〜んと首をかしげることり。

その姿はとても愛らしい。

「っていっても、俺は音楽の専門家じゃないから、深くは気にしないでくれ」

「う〜ん」

ことりはまだ考えていた。

「そろそろ学園に向かおうぜ」

そんなことりの手を引いて学園に向かう。

時間はちょうどいい時間になっていた。





「おはよう、ことり、朝倉」

「おはよう、工藤君」

「ああ、おはよう、工藤」

教室に入るといつも通り工藤が挨拶をしてくる。

「二人とも元気がないけど、どうしたんだ?」

心配そうに工藤が声をかけてくる。

「いや、いつも通りだけど?」

「そうか、……朝倉、ことりに無理させるなよ」

工藤はそれだけ言って自分の席に戻った。

「なんのことだ?」

俺は、急に押し寄せた疲れに身を委ねて、夢の世界に旅立った。





そう、またあの場所だ。

俺が、秘密基地と呼んでいた桜の木。

そこには、また一人の少女が立っていた。

今朝見た夢の少女ではない、それは幼いことりだった。

「っく、ひっく、えっく、ひっく」

幼いことりは桜の木の傍で泣いていた。

俺が傍に行こうとするとその姿は幻のように消えてしまった。

(!!!)

そして、木の上から声が聞こえる。

なにかの歌だが上手く聞き取れない。

気の上を見るとやはりことりが座っていた。

しかし、その歌声はいつものような歌じゃない。

俺が今まで聞いた事のない歌声だった。

「朝倉君、もう私は……」

俺の夢はそこで途絶える事になる。





ドゴッ

「痛っ」

「お兄ちゃん目覚めた?もうお昼休みになるから起きようね」

「さくら、お前な、出席簿を本気で振り下ろすな」

「だって、普通に言ったって起きてくれないし」

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

「はい、今日はここまで、午後の授業も頑張るように、日直号令」

「起立、礼」

日直の号令が済むと、殆どの生徒は急いで教室からいなくなる。

確かに、購買はスタートダッシュが肝心だからな。

「ことり、中庭に行こうぜ」

「うん」

鞄の中のお弁当を持ち、二人で中庭に向かった。





「……ことり、何か悩んでるのか?」

「…えっ、どうして急に?」

昼食が食べ終わり、中庭のベンチに座っている。

「いや、そんな気がしたからかな」

「…悩みなんかないよ」

「……そうか」

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

「早く戻らないとね」

「ああ」





そして、あっという間に放課後。

ことりと帰ろうと思ったところ、ことりは用事があるようで一人で帰ってしまった。

仕方がないので、さくらと今日の朝見た事を話しながら帰宅をしているところだ。

「そっか、桜が咲いてたんだ」

「ああ、お前何か知らないか?」

「ボクは、何にも知らないよ」

「そうか、さくらでも分からないか」

離しているともう家の前まで着いてしまう。

「じゃあ、お兄ちゃんまた明日」

「ああ、また明日」

そう言いさくらと別れ、家に入った。





夕食は、ことりが朝用意してくれたものを、暖めて食べた。

そのまま、ごろごろしているが、妙に気分が晴れない。

「ちょっと、見てくるか」

俺は、あの桜の木が気になっているようだ。

なんとなく急いで家をでて、秘密基地へと向かった。





「やっぱ、咲いてるか」

さくらの木を見て俺はそう漏らした。

「ぐすっ、ぐすっ、ひっく」

俺のいる位置から、ちょうど反対側から誰かのなく声が聞こえる。

誰の声だなんて考えるまでもなく、ことりの声だ。

「どうした、ことり」

「…朝倉君?」

やはりそこにはことりがいた。

「どうしたんだ、ことり」

「実はね、ぐすっ、この木を見ていたら、あのときの事を思い出しちゃって」

多分ことりが言っているあの時は、俺達が付き合い始めた頃の事だろう。

「でね、凄く、不安に、なっちゃって、気付いたら、泣いちゃってて」

ことりは、泣きながら区切り区切りに言葉を言う。

「言ったろ、『俺がいる。家族がいる親友だっているだろ?裏付けなんて必要ない。問答無用でことりが好きな連中だ。そうだろ?』ってな。だから不安になる事なんてない。幾ら不安でも、ことりは一度それに打ち勝ったんだ。今だってきっと勝てるはずさ」

「…ぐすっ、朝倉君、朝倉君」

ことりは涙を見せながら、俺に抱きついてきた。

俺は、ことりをぎゅっと抱きしめ、お互いの唇を重ねた。



それからことりが落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。

「送ってくよ、ことり」

「ありがとう、朝倉君」

「別にいつもの事だろ」

「そうだね」

その後、ことりを家まで送り届けた。

暦先生の笑みが少し怖かったがこれもいつも通りだ。

何故か俺は、家に帰ってからすぐに、夢の世界に旅立ってしまうほど疲れていた。





また、桜の木がある。

そこにはやはりばあちゃんがいた。

「どうだった、純一」

「何とかなったよ」

「そうか、良かった良かった」

ばあちゃんは、とてもにこやかに笑った。

「っでも、なんで急に桜が咲いたんだ」

「何、祖母から孫への些細な贈り物さ」

そう言ってばあちゃんの姿が消える。

「また、春にな」

そういって、俺の意識は違う夢の世界へと向かった。



純一が、全ての夢の事を思い出したのは、二日後の事であった。






あとがき?

氷「Banさん10000Hitおめでとうございます」

こ「おめでとうございます」

氷「ことりのSSとの事で、頑張って仕上げてみました。時期的には本校一年生です」

こ「けっきょく、朝倉君のお祖母ちゃんが言った……の部分はなんなの?」

氷「そこは、絆を深めてあげようとかじゃないんですか?」

こ「私に聞かれても……」

氷「一応、決めてないんですよね」

こ「それって、手抜きですか」

氷「さあ?」

こ「意外に、適当ですね」

氷「これでも、推敲には結構時間かけたんですけど」

こ「そうだったんですか」

氷「なんか冷たいお言葉」

こ「それはおいておいて、またいずれ逢いましょう」

氷・こ「それでは」





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